- 2019/11/21
- writer: Moto
奇跡の湖
カシミア山羊と初めて出会い、それまでの沈黙が嘘だったかのように車内は盛り上がります。
この場所にカシミア山羊がいるのかもわからず日本を出た僕たちにとって、最高の時間が流れていました。
今回僕たちを案内してくれたガイド兼ドライバーのスカザンも、最低限の目的を果たせたことでホッとしていました。
スカザン曰く、登山やトレッキングでガイドすることはあっても、カシミア山羊を求めてこの地にくる変わり者はそうはいないんだそうです。
普通の観光客であれば喜びそうな景色には無反応。
なのに山羊を見つけて盛り上がりカメラのシャッターを必死にきる僕たちを見て、変なやつらだなと思ったと最後の最後に笑いながら話してくれました。
そんなことを彼が思っているとはつゆ知らず、車の中で僕たちはただ念願のカシミア山羊に出会えた喜びと安堵感に浸っていました。
そして僕たちを乗せた車は更に奥へ奥へと道を進んでいきます。
さっき出会った生産者から更に有力な情報をもらいその場所を目指します。
この時わかったことは、彼らは季節ごとに移動しながら生活をしているということ。
夏はできる限り気温の低い高地へ移動し、冬場は少しだけ標高の低い場所へ降りて来て雪が解けるのを待ちます。
彼らは上質なカシミア原毛を生産することだけに注力して、この厳しい大自然の中で山羊と共に生きているのです。
この時はもうこんな雄大な大自然の中で育ったカシミア原毛に対してなんの疑いももっていませんでした。
数百年も昔から高く評価されているラダック産カシミア。
先祖代々景色が全く変わらないこの地で伝統を守り、上質なカシミアを彼らは育て続けています。
そしてカシミア山羊自体も他の種を混ぜることなくずっと固有の遺伝子をもった山羊が育てられています。
それがこの厳しい環境の中で育つラダック産カシミアが世界最高と言われる理由です。
かつて、カシミヤ山羊を標高の低い地域に連れていき、たくさんの毛を作ろうとした歴史がありました。 ただそうして意図的に作られたカシミヤ山羊の毛は本来の高い質感や機能性を失ってしまったそうです。
ところでカシミア山羊一頭から採れる原毛で作ることのできるストールは何枚か知っていますか?
実際に使われる毛は外側に太く生える外毛ではなく、その外毛に守られれるように生える内毛が使われます。
一頭から採れるその軽くてふんわりとした極上の内毛で作ることのできるストールは1枚か2枚と非常に貴重です。
太陽の陽を浴び、ヒマラヤ山脈の雪解け水を飲み、厳しい環境の中にも根を生やす貴重な草を食べる。
石油から一瞬で作られる化学繊維と、自然が時間をかけて生み出す天然繊維の違いは言うまでもありません。
そして僕たちを乗せた車はいよいよ目的の場所へ近づいてきました。
ベースの街を出てから9時間。
むき出しの草木の生えていない乾燥した大地をずっと眺めてきた僕たちの目の前に、突如オアシスのように青い湖が現れました。
あそこが今日の最終目的地、あの湖の周りに生産者がいるぞ。
ずっと静かに運転していたスカザンがそう僕たちに教えてくれました。
そして山の谷間を抜けて視界が開けた時、目の前には言葉を失うほど綺麗な湖が広がりました。
真っ青な空。
それを鏡のように映し出す水面。
今までこんなに美しい湖は見たことがありません。
そしてこの湖の周りには僕たちがずっと探していた生産者がテントを張り山羊とともに暮らしていました。
彼らは朝早く草を求めて放牧に出かけます。
そして日が暮れる頃になると、どこからともなく急な斜面を山羊と生産者が一日の放牧を終えて戻ってきます。
この厳しい環境で一日中新鮮な草を求め、ヒマラヤ山脈の雪解け水を飲み彼らは歩き続けます。
それを毎日毎日続けることで最高品質のカシミア原毛が育つのです。
日が沈み色が変化していく山と湖。
こんな場所で育つカシミアは良いに決まってる。
家に帰る生産者と山羊を見ながら僕たちが確信したのは6年前のことです。
コメント
「奇跡の湖」への8件のフィードバック
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Profile
Moto
1983年長野県生まれ。木曽在住。
Natural Lounge副代表、バイヤー。
気がつけばストールの奥深さに魅了され、世界中のストールを探している。
様々な国のストールを扱う中で、誰が、どんな場所で、どのように作っているのか、
現地訪問し生産者と直接対話して買付をするのがモットー。
特にインド人、イタリア人との相性は抜群。
趣味は地元である木曽で、キノコ採りや山菜採り、渓流釣りをして四季を満喫すること。
20代、30代と海外の様々な場所を訪れた経験から、今は地元に魅力を感じ地域の活動にも力を入れている。
あなたがつい”クスッ”と笑ってリラックスできるようなブログをお届けしたいと思っています。
Natural Lounge副代表、バイヤー。
気がつけばストールの奥深さに魅了され、世界中のストールを探している。
様々な国のストールを扱う中で、誰が、どんな場所で、どのように作っているのか、
現地訪問し生産者と直接対話して買付をするのがモットー。
特にインド人、イタリア人との相性は抜群。
趣味は地元である木曽で、キノコ採りや山菜採り、渓流釣りをして四季を満喫すること。
20代、30代と海外の様々な場所を訪れた経験から、今は地元に魅力を感じ地域の活動にも力を入れている。
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MOTO さん 今回も壮大な大自然の風景の数々ありがとうございます。
ほんとにいつも 癒されています。
心が開放的になり やさしい気持にさえなりますもの。
画面を見ているだけで現実から離れていきます。
今日も笑顔と感謝の気持ちを忘れずがんばります。 鈴木陽子
鈴木さん毎日ブログに目を通して頂きありがとうございます。
癒されると言っていただけると早朝からお届けしている身としては嬉しい限りです。
僕もこのブログを書きながら現地のことを思い出して癒されました。笑
はい!今日も笑顔と感謝の気持ちを忘れずに頑張りましょう!
Moto
今日も素晴らしい写真とお話に圧倒されました
とても経験出来る事ではないだけにモトさんのストールに対する真摯な気持ちが伝わって来ました
生きると言う事を考えさせられました
今朝は寒かったですね
どうぞご自愛くださいませ
k.s
K.sさん
そう言っていただけるとホッとします。
僕自身まさかこんな貴重な経験ができるとは数年前までは考えもしていませんでした。
ただ縁があり、現地のみんなに協力してもらって様々な経験や知識を得ることができているので、1人でも多くの人にこういう場所や人々、文化があるということを知っていただければと思います。
ここ数日本当に寒くなってきましたね。
K.sさんもお身体に気をつけてお過ごしください。
Moto
人が簡単に踏み入ることのできない、厳しく美しい自然には、言葉を無くしただただ圧倒されます。
ここには「インスタ映え」などという余計な言葉は不要な荘厳さがありますね。
いつものMotoさんの調子とはいい意味で違う(?)真摯で静謐な空気の漂う文章に、この自然と、変わらぬ暮らしを守る人たちへの敬意、そしてストールへの愛が伝わってきました。
生産者の方々が、カシミヤ山羊の生産者として幸せを感じられる生活環境が、続きますようにと願わずにはいられません。
ハヤシ
ハヤシさんコメントありがとうございます。
現地へ行くと目の前に広がる大自然に加えて、吹き曝しの風や香り、体が実際に感じる温度など五感全てが研ぎ澄まされます。
スケールが大きすぎる自然の迫力にただただ圧倒され、カメラはもちろん携帯ではとてもそれをおさめることはできません。
いつもと違う感じは良かったですか?笑
そう言っていただけると嬉しいです。
正直この仕事を初めて生産者を訪問するようになってから、ようやく服飾は文化であり、歴史なんだということに気づかされています。
商売本位のカシミアという言葉だけが日本では目立っていますが、実際にこういう背景を知ると人にとって貴重な財産なんだなと考えさせられます。
Moto
素晴らしい写真を有難う
厳しく 美しく 楽しい写真! 何時も驚き 楽しく拝見しています
良質なカシミアが 如何に得難いか 知り得た事に(今更です)感謝です
いつか 彼等の生活や価値観が 変わる時が有るのかと 気になるのはエゴでしょうか
小川原
小川原さん
コメント頂きありがとうございます。
ブログも楽しく読んで頂けているようで嬉しいです。
カシミアって誰もが知っている素材なのに、意外とどんな場所で、環境で生まれているのか知らないですよね。
僕もこの仕事を始めるまでは知りませんでした。
現地へ行くとすでに若者の生活や価値観は変わり始めています。
ただ今、実際にこんな貴重な文化に触れることができることに感謝しかありません。
いつもありがとうございます。
Moto