- 2021/06/04
- writer: 山崎拓
早く学ぶか?ゆっくり学ぶか?
先日、ある本の紹介をすべくメルマガを書き始めました。
が、結局前置き長くなり、詳しい内容をお話しできずに終わってしまいました 汗
なので、今回はその本について改めてあなたにご紹介したいと思います。
本のタイトルは「RANGE -知識の「幅」が最強の武器になる-」デイビッド・エプスタイン著。
この本は「早めの専門特化を否定し、逆にあちこちに回り道をしながら考え、実験する方が特に不確実性の高い時代では力の源になる」という趣旨の内容が様々なエピソードと共に語られています。
なぜ今回あなたにもこの本をご紹介したいと思ったのか?ということは前回のメルマガでもお話をさせていただきましたが、もう一つだけ付け加えるとこの本の内容は色々と直感に反する内容が多くあり、これが新たら気づきや洞察を与えてくれるんです♪
かなりの良書だと思うので、ぜひあなたにも手に取っていただきたいのですが、今日は僕が特に学びになった部分についてシェアさせていただきます。
今日もちょっと長めですが、ご自身はもちろん、お子さんやお孫さんの将来にとっても役立つ内容があると思います。
ぜひ、お時間があるときに最後まで読んでいただければ嬉しいです^^
RANGE -知識の「幅」が最強の武器になる-」デイビッド・エプスタイン著より抜粋
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過去40年間、アメリカの全国調査では、「現代の学生の教育は自分が学生だった頃よりも悪くなっている」と答える人が年々増えていたが、その認識は間違っている。
「国の成績表」とも言われる全米学力調査では、1970年以来、スコアが着実に向上している。
間違いなく現代の学生の基礎能力の習熟度は高まっている。
教育は悪くなっていない。教育で掲げられている様々な目標も以前よりずっと高い。
教育に関して世界的な影響力を持つ教育経済学者のグレッグ・ダンカンがこの傾向について記している。
40年前には「解法を用いる」問題にフォーカスすることは、とても効果があった。
というのも、当時は、タイピングやファイリング、工場での組み立てラインの仕事など、やり方が決まっている仕事で、中流階級の給与が得られる仕事がたくさんあったからだ。
しかし、ダンカンによると「その後、徐々に予期しなかった問題の解決が、賃金の良い仕事では求められるようになり、多くの場合、グループでそれに取り組む。このように労働者に求められる能力が変化しているため、学校への要求も厳しくなっている」
次に示す算数の問題は、1980年代のはじめ頃にマサチューセッツ州の小学6年生全員が受けた基本能力テストにあった問題だ。
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「キャロルは自転車で1時間に10マイル走れます。キャロルが店まで自転車で行くとしたらどれくらいの時間がかかりますか?」
この問題を解くためには次のうちどれを知る必要がありますか。
A.店までどのくらいの距離があるか
B.キャロルはどんな自転車に乗っているか
C.キャロルにはどのくらい時間があるか
D.キャロルは店でいくら払わなければならないか
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2011年には、マサチューセッツ州の6年生は次の問題を解いていた。
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ペイジとロージーとシェリルは、店でお菓子を買いました。
全員が9ドルずつ払いました。
・ペイジはピーナッツを3袋買いました。
・ロージーはピーナッツを2袋と、プレッツェルを一つ、ミルクシェークを1つ買いました。
問題A.
ピーナッツ一袋の値段はいくらですか。どうやってその答えを出したのかについても説明するか式で示しなさい。
問題B.
プレッツェル一つの値段はいくらですか。どうやってその答えを出したのかについても説明するか式で示しなさい。
問題C.
ミルクシェーク一つの値段で、プレッツェルはいくつ買えますか。どうやってその答えを出したのかについても説明するか式で示しなさい。
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1980年の問題では「距離=速さ×時間」というシンプルな計算式を覚えて、それを当てはめれば解くことができる。
2011年の問題になると、複数の概念を組み合わせて、それを別々の状況に適用しなければならない。
つまり現代の教師が子供の頃に受けた指導方法は、今日の教育で用いるには不十分ということだ。
知識はますます、長続きするだけでなく、柔軟性が求められるようになっている。
頭から離れず、また幅広く応用できるものででなければならない。
冒頭で紹介した中学2年生の数学のクラスでは、授業の最後にプリントの問題を解いていた。
このように、同じことを同じプロセスを用いて繰り返し練習することを、心理学者は「ブロック練習」と呼ぶ。
ブロック練習をすれば、「その時の成績はとても良くなる」
しかし、知識を柔軟にするためには様々な状況で学習しなければならない。
その手法は「多様性練習」と呼ばれ研究者は「インターリーブ」あるいは「インターリービング」と呼ぶ。
インターリービングにより、帰納的推論(複数の事象をもとに一つの結論を導き出す能力)の能力が高まることが分かっている。
様々な例が混ざった状態で示された時、生徒たちは抽象的な一般化の方法を学び、それによって、今までに出会ったことがない状況に対して、学んだことを応用できるようになる。
大学の数学の問題を使った研究でも、ブロック練習、つまり特定のタイプの問題ごとに学んだ学生と、全く同じ問題を混ぜて学んだ学生とでは、後者の方がはるかにテストの成績がよかった。
ブロック練習をした学生たちは、繰り返しによってそれぞれのタイプの問題を区別する方法を学んだ。
多様性練習をした学生たちは、様々なタイプの問題を区別する方法を学んだ。
-中略-
同様の効果が、蝶の種類の見分け方から、精神疾患の診断まであらゆる学習をしている人たちの間で見られた。
海軍航空隊のシュミレーションの研究では、多様性練習に取り組んでいる人たちは、ブロック練習をしている人たちに比べて、特定の危険のシナリオを用いた訓練での成績は良くなかった。
しかしテストでは、全員が全く新しいシナリオに取り組むことになり、そこでは多様性練習をしたグループが大勝した。
それでもインターリービングは学習の進歩を感じさせない傾向がある。
コーネルとビヨークによるインターリービングの研究では、80パーセントの学生が、多様性練習よりもブロック練習の方がよく学べると答えた。
しかし、80パーセントの学生の成績は、それが真実ではないことを示していた。
結局のところ、学びの感覚は、目の前の進歩に基づいている。
しかし、深い学びは目の前の進歩とは異なる。
コーネルは言う。
「直感的にブロック練習が良い」と感じたときは、おそらく多様性練習をすべきだ」
-中略-
運動でも学習でも、インターリービングにより、適切な方法を問題に適用する能力が高まる。
これは専門家の問題解決に見られる特徴でもある。
科学者でも物理学者でも政治学者でも、最も優れた問題解決者は、まず、どんなタイプの問題かを解明するために頭を絞り、次にその問題に適した戦略を適用する。
暗記した戦略をすぐに適用しようとはしない。
この点において、彼らは「適切な」学習環境で育んできた専門家、例えば直感に大きく頼っているチェス・プレーヤーなどとは正反対だ。
適切な学習環境の中にいる専門家は、まず戦略を選んで、その後で評価する。
一方で、繰り返す頻度が少ない環境の中にいる専門家は、まず評価し、その後で戦略を選ぶ。
テストする、間隔を空けるなどの「望ましい困難」によって、知識が頭から離れなくなり、長期的なものとなる。
「関係の認識」やインターリービングなどの「望ましい困難」を経験すると、知識は柔軟になり、練習中には登場しなかった問題に活用できるようになる。
これらすべてが学習の速度を遅くし、短期的には成績が下がる。
ここから困った問題が生じる可能性もある。
なぜなら、人は現在出ている成果によって反射的に進歩を評価するからだ。そして、それは大抵間違っている。
2017年に、前出のグレッグ・ダンカンは、心理学者のドリュー・ベイリーとともに67の早期教育プログラムを評価した。
どれも学習成績の向上を目的としたプログラムだ。
ヘッドスタート(低所得者向けの早期教育プログラム)のようなプログラムを受けることで、文字通りスタート時点では先んじることができる。
しかし、学習面での成績はせいぜいその程度だ。
研究では「フェードアウト効果」が広く見られることがわかった。
つまり、一時的な学習面での優位性はすぐに消えて、大抵の場合、完全になくなってしまう。
グラフにすると、意識的練習で先んじた子供達に、将来エリート選手になる子供が追いついていくことを示したグラフに不気味なほどよく似ている。
ダンカンたちによると、そうなる理由は、早期教育プログラムでは「閉じられた」スキル、つまり、決まったやり方を繰り返すことですぐに習得できるスキルと教えているからだという。
そのようなスキルであれば、誰もがいずれは身につける。
フェードアウトとは、スキルが消えてしまうのではなく、他の子供達が追いつくということだ。
運動技能に関する同様の例に、子供が他の子供より先に歩けるように教える、というものがある。
しかし、誰でもいつかは歩くことを覚える。その時はすごいと思われるかもしれないが、早い時期に歩けるようになることはそれほど重要ではない。
継続的な学習効果を生み出したいのであれば、早期教育プログラムは、「開かれた」スキルにフォーカスすべきとダンカンたちは勧める。
それが、その後の学びの足場となるのだ。
子供達に少し早く読み書きを教えても、それが継続的な強みとはならない。
そうではなく、読んでいる内容を理解するための手がかりを探したり、それらを関連づける方法を教えたりすれば、継続的な強みとなる。
問題は全ての望ましい困難と同様に、早期教育プログラムはすぐに成果が出るが、深い学びには時間がかかることだ。
ダンカンたちは「最も複雑なスキルを得るための成長には、最も時間がかかる」と表現する。
ダンカンはテレビ番組の「トゥデイ」に出演し、研究結果について話した。
すると、親や早期教育の教師たちが「子供達は確実に進歩している」と反論してきた。
しかし、論点はそこではない。
問題は、将来の学びのインパクトを親や教師がどのくらい評価できるかだ。
目の前の進捗を見せつけられると、本能的に同じことをもっと繰り返したほうがいい、との思いが強くなる。だが、そのフィードバックは間違っている。
深く学ぶためには、ゆっくり学ぶ必要がある。
ヘッドスタート信仰は成長させたいと思っている相手の役に立っていない。
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いかがでしょうか?
朝一からこれを読むのはちょっとしんどかったかもしれません 汗
(でも読んでいただきありがとうございます^^)
ただ、日々の学習や学びについて考えさせられる部分も多かったのではないでしょうか?
自分自身の学習はもちろん、子供達をはじめ、部下や後輩を持つ人は相手に与えるフィードバックの改善にも活かせると思います。
書籍にはより具体的に掘り下げた内容が多数載っていて、必ずしも早い段階での専門特化が優れているわけではなく、むしろ害になることについても様々な角度から展開されていてとても勉強になります。
もちろん、早めの専門特化が優れている研究も多数あるので、それらの両方を知った上でどれが自分にとって良いのか、相手にとって良いのか考えることが一番大切なのだと思います。
(特に小さな子供達にとっては親や周りの環境によって成長具合が大きく変わるので!)
ということで、興味を持った方は是非書籍も手にとってみてください♪
PS.
ちなみにある分野のスペシャリストを目指したい!という方にオススメの本は「PEAK -超一流になるには才能か努力か-」です♪
PPS.
今日紹介した「RANGE -知識の「幅」が最強の武器になる-」と「PEAK -超一流になるには才能か努力か-」に共通することは、優れた能力やスキルを身につけるために必要なものは才能ではなく努力や忍耐だ、という部分は完全に共通しています。
最短で超一流を目指すにせよ、時間をかけてゆっくり成長するにせよ、これらのことは努力・忍耐によって成される、ということは間違いないようです。
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