- 2025/10/07
- writer: Moto
「立体感と躍動感 ― カシミール・アーリ刺繍の魅力」

前回までのブログでご紹介してきたカシミール織物。
今日はまず「アーリ刺繍(Aari embroidery)」のについて、少し掘り下げてお話ししたいと思います。
アーリ刺繍は、「Aari」と呼ばれる鉤針を使って生地に刺繍を施していく伝統的な技法です。

小さな鉤針を使って糸をすくい上げながら刺していくため、曲線や花びらのようなモチーフを流れるように表現できるのが大きな特徴。
かつてはムガル帝国の宮廷でも重宝され、王族や貴族たちの衣装を華やかに彩ってきました。
現在でもその技術は受け継がれ、カシミール地方ではストールやタペストリーなどに用いられます。
一見すると、アーリとニードル(Sozni)刺繍は似ている部分もあるかもしれません。
どちらも緻密で美しい手仕事ですが、アーリ刺繍は針の動きが大きく、糸のループを活かした「大きく伸びやかな線」が魅力。

一方のニードル刺繍は一本の針と糸だけで細かく布地に縫い込んでいくため、刺繍量の多いものに関しては、完成までに数年を要するストールもあります。
そうした中でアーリ刺繍には独特の立体感と纏うオーラがあり、職人の感性がそのままデザインに表れる点が魅力です。
今年仕入れた僕の師匠のコレクションはまさにその中でも逸品中の品物。
様々な色の糸を使い分けた技量の高いものは、ひと目見れば誰もが圧倒されます。

実際にカシミールの工房を訪れたとき、僕の印象に強く残っているのは「音」です。
アーリ刺繍を施すときに、職人がリズム良く鉤針を用いながら流れるよに刺繍を施して行くときの、リズムの良い優しい音が印象的。

その音は心地よく、まるで布が少しずつ命を宿していくような感覚になります。
それはもはや芸術。
一枚の布の上に大胆な絵が描かれて行く様子は圧巻です。
アーリ刺繍の多くは、カシミールの大自然からインスピレーションを受けた花々やペイズリー文様をモチーフにしています。

熟練の職人による手仕事から生まれる逸品の立体感や躍動感は、同じ手刺繍でもニードル刺繍とはまた違う表情を見せてくれます。

ニードル刺繍が時間の積み重ねによって完成する繊細な世界だとすれば、アーリ刺繍は職人のリズムと感性がそのまま布の上を踊るように表現される技ですかね。
踊るという表現はアーリ刺繍の立体感や躍動感にぴったりです。
アーリ刺繍は、カシミールが誇る伝統的な手刺繍のひとつ。
技術的にはニードル刺繍よりも柔らかく、より生活に寄り添った形で人々の暮らしの中に息づいてきました。

もともとは衣服や日用品にも施され、家庭の中で親から子へと自然に受け継がれてきた刺繍です。
そんな中でも上質な素材と熟練の技が組み合わされば、気品を放ち、まさに“ハイクラス”と呼ぶにふさわしい美しさが生まれます。

アーリ刺繍はまさにカシミールが世界に誇る手仕事の1つです。
コメント
「「立体感と躍動感 ― カシミール・アーリ刺繍の魅力」」への1件のフィードバック
コメントを残す コメントをキャンセル
Profile

Moto
1983年長野県生まれ。木曽在住。
Natural Lounge副代表、バイヤー。
気がつけばストールの奥深さに魅了され、世界中のストールを探している。
様々な国のストールを扱う中で、誰が、どんな場所で、どのように作っているのか、
現地訪問し生産者と直接対話して買付をするのがモットー。
特にインド人、イタリア人との相性は抜群。
趣味は地元である木曽で、キノコ採りや山菜採り、渓流釣りをして四季を満喫すること。
20代、30代と海外の様々な場所を訪れた経験から、今は地元に魅力を感じ地域の活動にも力を入れている。
あなたがつい”クスッ”と笑ってリラックスできるようなブログをお届けしたいと思っています。
Natural Lounge副代表、バイヤー。
気がつけばストールの奥深さに魅了され、世界中のストールを探している。
様々な国のストールを扱う中で、誰が、どんな場所で、どのように作っているのか、
現地訪問し生産者と直接対話して買付をするのがモットー。
特にインド人、イタリア人との相性は抜群。
趣味は地元である木曽で、キノコ採りや山菜採り、渓流釣りをして四季を満喫すること。
20代、30代と海外の様々な場所を訪れた経験から、今は地元に魅力を感じ地域の活動にも力を入れている。
あなたがつい”クスッ”と笑ってリラックスできるようなブログをお届けしたいと思っています。
買付や原産国についての最新記事一覧

- 2025.09.09 writer:山崎拓
- 「ストールの魅力を引き出せるかは腕の見せ所」

- 2025.09.04 writer:山崎拓
- 今年最後のインド買付も終了しました!

- 2025.09.02 writer:山崎拓
- 「インド博物館・19世紀のカシミールショール」
2025年 (282)
2024年 (366)
2023年 (365)
2022年 (365)
2021年 (365)
2020年 (366)
2019年 (364)
2018年 (362)
2017年 (356)
2016年 (353)
10年以上前の記事
メールマガジンに登録するとストールコーディネート、ファッション情報、NaturalLoungeの最新ストール情報をいち早く手に入れることができます!
おはようございます☀
朝から目の保養……保養というよりは、目を見張る素晴らしさで目が覚めるが正解(笑)
やっぱり、最後のストールは凄すぎる😱
今までのストールも勿論素晴らしいのは間違いないのですが、別格ですね😲
ホントに手仕事なのかと思うくらい精密な刺繍ですよね~😍
実物、見てみたかったですぅ😰
三重 近藤