2013年9月14日。
税務署に開業届を提出し、意気揚々と「お店」に帰ってきます。
お店といってもここはただの古い一軒家。
それでもこの日のために仕入れてきた少量のストールと準備してきた梱包部材が家の中にはぎっしり詰まっています。
そして、約半年ががりで作った手作りのホームページを見ながら、これから流れるように入ってくる注文のメールを想像するだけで胸が高鳴ります。
朝の10:00。
「男性ストール専門店Natural Lounge」をインターネット上に公開します。
注文の電話が鳴り続けたらどうしよう・・・
注文が入りすぎたら出荷間に合うかな?
仕入れてきたストールが売り切れちゃったら?
あきれるほどポジティブ。
誰でもそうだと思いますが、何かを新しく始める前は何もかもが初めてなので正しい予測ができません 笑
特に僕らはこの分野すべての経験がまったくのゼロ。
これはなかなか恐ろしいことです。
そして、その後、すぐに厳しい現実を叩きつけられることになります。
注文がぜんぜん入らない・・・
1時間経っても、3時間経っても、注文はおろか、問い合わせの電話も鳴らない・・・
まあ、まだみんなじっくり検討しているんでしょ。
なんて、この時はまだまだ楽観的。
でも、一日たっても、3日経っても、一週間経っても・・・
うんともすんとも言わない。
これはちょっとおかしいんじゃないか?
ということで、
自分たちのインターネット回線が切れているんじゃないか?
ホームーページがお客さんに見えていないんじゃないか?
クレジットカード決済システムがバグっているんじゃないか?
という、見当違いの考えがどんどん浮かんできます。
(ちなみにこれらはすべて正常でした 笑)
そして、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月・・・と過ぎていき、ついに自分たちに問題があることに初めて気がつきます。
「ストールなんて売れない・・・」
「ストールなんて誰も求めていないんじゃないか?」
「インターネットでストールを販売するのは無理なんじゃないか?」
始める前とはうって変わって、いきなり超ネガティブ 笑
というのも、この3ヶ月で売れたストールはたったの6枚。
(そのうちほとんどは身内)
当時としてはかなり大きな金額を広告に投資しているのにも関わらず、6枚って・・・
もう泣きたくなる、を通り越して、恐怖の感情が湧き出てきます。
しかも僕に関しては自分の周りの95%くらいの人に「絶対に上手くいかないからやめとけ!」と言われていた状況で始めているので、余計に感情がグラグラと揺さぶられます。
やっぱり皆が言っている事が正しかったんじゃないか?
そんな弱い自分が頭をもたげます。
どっちにしてもこのままいったら間違いなく廃業だ・・・
これはどうにかしなきゃいけない!
と思うも、この未経験者3人ではなかなかいいアイディアが浮かびません。
(今は一人辞めてしまいましたが、当時は3人で始めました)
ただ、全員が間違いなく分かっていたのはこのままでは、お金が底をついてしまうのは時間の問題だ、ということ・・・
インターネット通販の厳しさ
30歳にして、アルバイト生活の始まりです 笑
当時のアルバイトと本業(インターネット通販)の仕事の比率は8:2。
もう、アルバイトが仕事なのか、インターネット通販がアルバイトなのかわからない状況です 泣
でも、当時はとにかく資金が底を尽きたら終わりだったので、こうするしかありませんでした。
自分の生活費は極限まで削って、アルバイトで得た収入を会社の資本に入れる、というかなり厳しい状況。
それでも、常にどうしたらお店を軌道にのせることができるか?
と言うことは考えていました。
ただこの当時分かったことは、インターネット通販というものは本当に厳しい世界だということ。特に当時はインターネット業界は黎明期を終えて、成熟し始めていました。なので、技術の差が圧倒的に出てしまう環境でした。
当たり前ですが、素人がいきなり参入して、上手くいくわけがない。
失敗を繰り返して技術を身につけながら地道にやっていくしかない!と、ある意味開き直れた時期でもあります。
でも、色々と実験やテストをするにしても資金は必要になります。
当時は一つのアルバイトでしたが、これでは足りない!ということで掛け持ちのアルバイトを探すことに。
当時アルバイトをしていたのは地元のアパレルショップ。
もともと製造業で接客も未経験だったので、最低限この経験を積めるアルバイトを探しました。
とはいえ、本業のことを隠してアルバイトはしたくなかったので、すべて本当のことを伝えて、アルバイトを申し込みます。
「本業は別にあるけれど、今は経験のために働かせて欲しいんです!!」
もちろん、起業に対する当時持っていた限りの熱い思いと一緒に採用を募集しているできるかぎりの会社にメッセージを送ります。
ちなみに、こういうことを言うとほとんどの企業は採用をしてくれません 笑
ただ、一社だけ興味を示してくれた会社があったんです。
今から思えば、この出会いが一つの転機になりました。
貴重な経験
普通の会社は採用担当者もしくは店長が面接をして、そこで採用されるかが決まります。
ですが、連絡をくれたこの会社は社長さん自らが会って話がしたい、と言ってくれたのです。
初めて会った日、僕は自分の過去の経歴や今の状況をすべて話し、ストールのことや起業に関する想いをその社長さんに伝えました。
社長さんは黙って聞いた後、こういったんです。
「うちで働くのは本当にキツイし、自分の会社を続けることはその何倍もキツイぞ。その覚悟はあるか?」
あります!!
お願いします!!!
その日から30歳にしてアルバイトのダブルワークの始まりです 笑
確かに、その社長さんの言う通り、この会社は体育会系というか、超実力主義の会社でした。ある意味、結果を出すためならなんでもする、というハングリー精神をメンバー全員が持っていました。
しかも全員20代の若者。
この子たちが、いきなり入ってきたこのおっさんは誰やねん!
みたいな感じで見てくるわけです 笑
ちなみに、こういうアパレル販売の現場ではよくあるのですが、個人予算というものが設定されていて、個々の販売員に販売のノルマが課せられています。
このノルマが結構鬼なんです 笑
で、もちろん、全体の予算があるので、僕としては自分は経験が少ないし全体がうまくいくように他の販売員をフォローしようとするのですが、それだと全く評価されない。
お前もっと売れや!!
と露骨に態度に出してくる。
もちろん、社長さんも数字を毎日チェックしていて「山崎さん、やる気ないならいらんで」みたいなことを言われる。
僕も元々かなりの負けず嫌いですし、そういうスタンスならそれに合わせよう。ということで、営業中は他のことはかまわずひたすら接客に集中しました。
そうするうちに徐々に結果も出るようになり、最終的には皆が認めてくるようになりました。
今から思えば、この経験は本当に大きかったです。
接客経験自体もそうですが、お客さんの購買心理やお客さんが求めているもの、商品についてどのようなことを伝えればお客さんが反応してくれるのか?ということが理屈だけでなく体で分かってきました。
そして、アルバイトの実績を評価してくれ、期間限定で僕らのストールをそのお店の隣に並べていい、という許可をいただきました。
パルコに初出店!
当時その会社が出店していたのは、松本のファッションにおけるランドマーク的な存在である「パルコ」。
僕らにとっても、当時パルコに出店できるなんて本当に夢のようでした。
これならお客さんがたくさん来てくれて、きっとたくさんストールが売れるはず!!
また、起業当時に抱いていた希望が見えてきました。
初めて、パルコに出店した2013年の年末年始。
この日のことは今でも忘れられません。
自分たちのストールが店頭に並んだ瞬間。
90㎝幅の什器の中に収めなければいけないため、ディスプレイできる面積はとても小さい。
それでも、本当に嬉しかったのを覚えています。
その社長さんの計らいで、ディスプレイやシフトなどすべて僕の方に任せてくださり、社員の方(Y君)も販売のフォローで入ってくれました。
そして、来たる12月26日。
これほどの緊張は今までの人生で経験したことがありません。
正直、9月14日に初めてインターネット通販サイトを公開したときよりも緊張しました 笑
今自分は松本パルコの店頭に立っていて、自分たちで仕入れたストールを販売できる。そして、この売れ行きいかんでナチュラルラウンジの将来が決まるだろうと。
おそらく、ここで売れなければ、本当にストール専門店自体を続けるか、本気で考えなければならないと感じていました。
(販売する場所も人通りの多い一階の通路、開催時期も寒さの厳しく、来店も年間を通してピークになる年末年始。環境は一切言い訳にはできません)
もう期待とプレッシャーで変になりそう。
そして、10:00。
松本パルコが開店します。
すぐに店内は多くのお客さんで賑わいます。
そしてほとんどの人は素通り 泣
たまにお店の近くで立ち止まる人がいますが、その人が見ているのはTシャツ(僕がバイトをしていた会社はTシャツ屋なんです)
そっちかー!!
と心の中では思うも、今回の催事の結果は全て僕の責任だったので、Tシャツもきちんと販売しなければいけません。
まずはTシャツからだ!
と気持ちを切り替えて、全力で接客をします。
Tシャツはもともと実績があるので、やっぱり少しずつ売れていきます。
一方でストールは・・・
でも、当時はストールが売れるか売れないか?なんて考えている暇もありませんでした。とにかく売上をあげなければ!という切迫感が本当にすごくて・・・
(これは本来良くないことなのですが、当時はそんな余裕がありません 笑)
特にこの会社のスタンスは、そのお客さんが興味あろうがなかろうがとにかく通りかかったらお声がけをする、というかなりアグレッシブな接客。お客さんがいない時には大声を張り上げてお店の存在をアピールします。
もう恥ずかしいとか、かっこ悪いとか、そんなことは一切言っていられません。
とにかく必死。
ちなみに、パルコ1階はラグジュアリーブランドが多いので僕らは完全に異質な存在です 笑
なので、注意だけは引ける。でも、これもブランドではない会社や商品がお客さんに初めて知ってもらうためにはとても大切だ、ということを学びました。
そんな激動のパルコ開店から2時間ほど経ってから、ある上品な雰囲気の女性がストールのディスプレイしてあるラックの前に立っています。
キターー!!!
まだ買ってもらっていないのに、見てもらえただけでこんなにも嬉しいとは。
ダッシュで走って行って、そのお客さんの隣に張り付きます 笑
普通の洋服のお店でこんな店員がいたら絶対に嫌ですけどね 苦笑
繰り返しになりますが、、、
必死なんです。
とはいえ、僕もここまでで、お客さんによって接客スタイルを変えるというくらいのスキルは身についていたので、Tシャツのお客さんとは違ったアプローチを取ろうと試みます。
お客さんの呼吸に合わせて呼吸をし、お客さんの話すスピードに合わせて話し、お客さんの使う言葉を使い、お客さんの見ている世界を見ようとし、お客さんの興味を示したことだけを語る。決して商品の話から入ることはない。できる販売員は常にお客さん中心に考える。
いや、それはわかってるんだけど、、、
無理でした 笑
このチャンスを逃したらきっと次はない!!
と思っていたので、もうそんな接客の王道は全て無視!!
完全にストールの話や自分たちがこだわってインドまで行って買い付けてきていることを一方的にまくし立てます。
お客さんはあっけにとられています。
これは完全に失敗しちゃった・・・
そう思った瞬間。
「じゃあ、これをいただきます」
え!!?
いいんですか!?
普通、買いますって言われて「いいんですか!?」なんて聞き返しませんよね 笑
でも僕はつい言っちゃいました。
(だって、絶対に買ってもらえないと思っていたので・・・)
必死すぎてもう何が起こったのか、自分でも良くわかっていなかったんだと思います。
初めて全くの見知らぬお客さんに自分たちのストールを手に取って頂いた瞬間。
売れたーーーー!!!
とは叫びませんでしたが、もう叫びたかったですよね 笑
一緒に店頭に立ってくれていたY君とそれはそれは盛り上がりました。
ストール売れましたね!!
売れた!!
よかった!!!
その一枚が売れたことで、僕自身もほんのちょっとだけリラックスできて、エンジンがかかってきました。
お名前こそ分かりませんが、このお客さんのことは一生涯忘れることができません。
しばらくすると、心配したMotoともう一人のメンバーが応援しに来てくれました。
(当時は店頭には僕しか立てなかったので、Motoには色々なことを裏でフォローしてもらいました)
Moto「ストール売れた?」
僕「売れた!」
Moto「おおー!!よかった!」
それから少しずつ、少しずつ、1日に数枚というとても少ないペースではありましたが、ストールが売れるようになってきました。
もちろん、ほとんどはTシャツの販売がメインでしたが 笑
無事に約2週間の催事販売を終え、なんとか提示されていた予算も達成することができました。
そして、僕は緊張とプレッシャー、激務が響き、その直後に39度の熱を出してダウンしました 笑
ただその甲斐あって、その後も継続的に催事出店のお話をいただき、約1年半、パルコでの催事販売を行いました。
その経験を通じて、
どんな人がストールに興味を持っているのか?
自分たちが本当に相手にするべきお客さんは誰か?
どんなコンセプトを打ち出すべきか?
そういったことを現場体験からもう一度しっかりと考えることができました。
今まではインターネットというバーチャルな空間の中で考えていたことが、実際にお客さんと対面することでリアルになり、そこで得た経験をインターネット通販や実店舗に活かすことができるようになりました。
そして、「男性ストール専門店Natural Lounge」から「ストール専門店Natural Lounge」に改名したのもこのタイミング 笑
そこから試行錯誤を繰り返し、今に至る、というわけです。
こうして書いていると改めて感じることは、本当にいろいろな人の助けがあって、まるで奇跡のような出会いがあって、今の自分たちがあるということ。
そう考えると、今こうして仕事ができていること自体が本当にありがたいです。
あなたを始め、お客さん一人一人、インドの生産者、日々協力してくださっているパートナーの会社さんたち、家族や友人のおかげで今のナチュラルラウンジがあります。
いつも本当にありがとうございます。
この感謝の気持ちと、当時の初心を忘れずに、これから6年目も精進していきます。
これからもストール専門店Natural Loungeをどうぞよろしくお願いします!
コメント
To Taku&Moto
起業5周年・・・おめでとう!!
良く頑張りましたネ・・・。
今日のプログの最後の二人の写真・・・いいネ! いい顔している!
3日、3週間、3ヶ月・・・そして3年。夢と現実のギャップにさいなまれながら
ほんとに良く頑張って今の顔があるのですヨ・・・!!
以前にも書きましたが、石の上にも3年という諺・・・二人には『強い意思の上に三年』
ですね。
私から飛び立ち・・・見事に天職を見出し活きている二人に乾杯です。
次は、30年を目指して「日本のNatuural Lounge」から
『世界のNatural Lounge』へと羽ばたくよう日々精進してください。
その為に、身体が資本、お客様が財産ですヨ
そして、奢らず、焦らず、気後れせずに、世の中の変化に対応する事が大事です。
第三の親父より
第三の親父さん
コメントありがとうございます!
おかげさまでここまで続けることができました。
いつもご指導ご鞭撻本当にありがとうございます!!
そして、特に起業当初の絶望的な状況を切り抜けられたのはSYDでの経験が一番大きいと感じています。
社会人になった初めの7年間で自分の中での仕事に対する高い基準ができました。
(もちろん、きついこともたくさんありました 笑 でもそれがよかったです!)
あの経験がなければ絶対に続ける事はできなかっただろうなーと感じます。
なので、今の僕らがあるのは本当に第三の親父さんのご指導のおかげです。
これから10年、20年、30年・・・そしていつかSYDと同じく40年を迎えられるよう、世界一になれるよう。まずは次の6年目を全力で取り組んでいきます!
いつも本当にありがとうございます。
山崎