はじめに


インドの織物文化はとても古く、
地域によって生産方法や、素材、デザインなどが大きく異なります。
私たちは自分達の足で現地に行き原料の生産者や工場、お店を訪ねます。

実際にストール作りに携わる人達と直接会話をすることで、
あなたに紹介するストールが誰の手で、そして
どのような環境で作られているのかを自分達の目で確認する事ができています。

更に直接現地に行く事で
本やインターネットには載っていない情報も手に入れる事ができます。
その経験から得た知識や情報を
この買付日記を通じて少しでもあなたに知って頂きたいと思います。




〜カシミヤ生産者を訪ねるまで〜





インドのカシミール州はカシミヤ発祥の地として世界中に知られています。
古くから要衝の地として栄えたカシミールは
独自の文化を築き、大自然の中に生きる彼らは
その自然の恵みを最大限に活かして生活してきました。




カシミールの織物は世界的にも有名である事はこれまでも説明してきましたが
ここカシミールでは、織物の原料となるカシミヤの生産も行われています。
現在、世界のカシミヤ生産国として有名なのは中国、そしてモンゴル。
その他アフガニスタン、イラン等中央アジア諸国が名を連ねます。



高品質のカシミヤは山岳地域で育つカシミヤ山羊からしか採ることが出来ず
極めて生産が困難です。
マイナス30度とも言われる冬季の厳しい環境から
カシミヤ山羊は身を守るため秋に細く暖かな毛を生やします。
そして極寒の冬を乗り越えて、夏になる前にその内毛を脱ぐのです。
そのため、採毛は一年に一回しかできません。




こうして私達が百貨店等で目にするカシミヤ製品の原毛ができるわけですが、
忘れてはいけないのが、その過酷な環境下でカシミヤを生産する生産者です。
とても私達が住もうとしても住めない場所で、
彼らは山羊とともに遊牧し、数少ない平地で暮らしています。




インターネットや本には細かな情報がない上、
世の中には数千円のカシミヤ表示の製品から何万もするものまで様々です。
中にはインドやネパールに行けば千円でカシミヤ商品を購入できる
という話も聞いた事がありました。





現実はどうなっているのだろう。




そんな思いが私達の心の中で強くなり、
気がつけば標高5000mの場所に立っていました。



〜現地へ向かう〜



私達は数少ない情報から、
カシミールのラダックという地域でカシミヤが生産されているという情報を
インドの首都デリーで入手しました。
ただ、そこは陸の孤島と呼ばれ観光客が容易に行くことができるのは
5月から8月までたったの3ヶ月間です。
更に、ベースとなる街ですら標高が3500mという
日本で普通に生活している私達にとっては未知の世界でした。






まずは、その街に移動して体を高地にならし、
その間現地でカシミヤ生産者の情報を集めました。


その結果、


・近くの生産者を訪ねるだけでも2日がかりだという事。
・ 外国人がその地域に入るには許可証の申請が必要
・ 車とドライバーをチャーターしなければ行けない
・ 標高5000m以上の山道を乗り越える必要がある




本物のカシミヤに出会うのは、想像以上に難しい事だと言う事をこの時
私達は痛感することになりました。
そして手続きや、準備を済ませた私達は念願のカシミヤ山羊、
そして生産者に会うために街を出発しました。






目の前にはヒマラヤ山脈が広がり
未知の領域に足を踏み入れることに私達は興奮を抑える事が困難でしたが
学生時代に授業で習ったインダス川を横に見ながら、
今まで見た事がないような景色の中を私達を乗せた車が走って行きます。
まるでどこかの惑星に来たかのような錯覚に襲われ
気がつけば3人とも無言になっていました。






木や草がほとんど生えていない山の中を人間が切り開いた道を
ただただ走っていく。
こんな所に人や動物が本当にいるのか
そんな不安にかられた私達は何度もドライバーに確認します。
その度にドライバーは
何の心配もいらない。この山道を越えれば彼らはいるからと
私達の不安を拭ってくれました。






山道をひたすら走ること数時間。
まずはこの道中で一番高い標高5360mの場所に辿りつきました。
少し歩くだけで息が苦しくなる。
今まで感じた事がないほどはっきりと
自分達の体の変化に気付く事になります。
その時ベースの街を出てから既に6時間が経っていました。
まだ着かないのか。
3人ともそう感じていたと思います。






〜カシミヤ山羊と出会う〜




そしていよいよその時が訪れます。
街を出てから8時間、同じような景色に少し飽きて来た時でした。
ドライバーがあそこにいるぞ!と遥か遠くを指差します。
遠く豆粒のように見えたモノ。 
念願のカシミヤ山羊が目の前に現れました。






今まで訪れた事のないような大自然の中で
彼らは悠々と散歩をしていました。
ゴミ一つ落ちていない、人の手が入っていない大自然の中で育つカシミヤ山羊。
ようやく出会えた感動と、想像していた以上の山羊の小ささに
3人とも思わず笑顔になりました。



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そしてその場にいた17才の羊飼いの少女が
快く私達を迎えてくれ、生まれたばかりの子山羊も抱かせてくれました。
その感触は、綿飴? 今まで触れた事のない柔らかくて暖かいその温もりを
私達はうまく表現できませんでした。


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車も、人も全然いないこの土地で17才の少女はどんな事を考えながら山羊と一緒にいるのだろう
そんな事を思いながら、お礼を言い目的の集落を目指します。






日本を発ってから1ヶ月。
なんとか出会えたカシミヤ山羊と生産者。
もっとたくさんの事を知りたい。
私達は高まる感情を必死に抑えながらさらに進んで行きます。

そして街を出てから10時間。
ようやく目的の集落に到着、
そこは息を飲む程美しい湖の畔にありました。
このような場所で育つカシミヤ。
本当に貴重であるということは、
生産者に聞かずとも、この時点で私達は3人は気付いていたと思います。






朝出発して、到着したのは夕方。
もう遅いからと、この日は生産者の家に泊めさせてもらい
次の日の朝から、カシミヤについて話を聞くことになりました。
標高4000m。貴重な夕食もわけてもらい朝に備えます。





<インド買付日記 〜標高4000mカシミヤ生産者を訪ねて(下)〜へつづく>


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