〜本物のカシミヤ山羊〜
翌朝、私達はカシミヤ山羊の鳴き声で目を覚ましました。
急いで外にでると、狭い石垣の中に固まっている山羊達がいました。
まもなくして、
生産者の家族も外に出てきました、
そして放牧のため一頭一頭確認しながら石垣の外に出して行きます。
お父さんが山羊を確認しながら、私達にカシミヤ山羊の生産について話をしてくれました。
まずカシミヤ山羊は大人でも体長が50cmほどにしかなりません。
最初に見た時は子山羊かと思いましたが、
大人になってもそれ以上は大きくならないそうです。
そして、一頭の山羊から採れるカシミヤの量は約100〜200g。
Natural Loungeのウールストール1枚当たりの平均重量が100g
という事を考えると、一頭につきカシミヤストールは
1枚から2枚しか作ることができません。
というのも、山羊一頭から採れる毛が全てカシミヤとなる訳ではないからです。
カシミヤとして扱われるのは、外側に生えている太くて固い毛ではなく、
内側に生える細くて柔らかい毛のみになります。
また、この内側の毛は真冬の寒い時期にしか生えてこないため
冬が終わった5月〜6月の年一回しか採毛することができません。
私達が訪れた生産者が飼っている山羊が約150頭という事を考えると
どれ程の生産量しかないかが分かってもらえると思います。
そして、彼らは生計を立てるために山羊とともに
限られた資源の中で共に生活しているのです。
こんな話をしながら
慣れた手つきで彼らは放牧に行く準備を進めます。
子やぎは放牧には行く事ができないため
放牧前に親山羊がミルクをあげます。
夜間、親山羊と子やぎは別の囲いの中にいるので
その時間は子やぎにとって至福の時です。
丸いしっぽを取れそうになる程振りながら
お母さんに甘えていました。
放牧は朝から夕方まで一日かけて
草を探しながら歩き続けます。
雪で覆われる冬以外彼らは毎日これを繰り返します。
僕達が訪れたのは5月。
辺りを見渡すと岩がむき出しの険しい斜面が続きます。
そうは言ってもここは標高4500mの世界。
どれだけその仕事が過酷かは目の前にある風景をみれば
それ以上の説明はいりません。
辺り一面、全く草がない石だらけの土地。
どこまで草を求めて歩くのですかと訊ねると
遠くに見える雪山を指差して
あの山の裏まで今日は行くよ。
とサラっと彼は言います。
繰り返しますがそうは言ってもここは標高4500mです。
そして、一頭一頭の健康状態の確認を終えると
山羊と羊飼いは放牧に出かけて行きました。
仮に、ここにいるカシミヤ山羊を
標高の低いもっと生産が楽な土地に連れて行ったとしても
毛質が変わってしまい上質な毛が採れなくなってしまうそうです。
上質な土壌が美味しい野菜を生み出す様に
上質なカシミヤも、この山羊と、この大自然、
そして、それと共に生きる人が揃って始めて生まれます。
私達は、羊と羊飼いが見えなくなるまでその光景をただただ見ていました。
私達にとって、春のこの時期ですら過酷な環境なのに
厳しい冬も彼らは日々これを繰り返すわけです。
カシミヤを生産することの大変さを身をもって感じていました。
そして、山羊に対して家族同様に愛情を注いでいる生産者の姿からも
上質なカシミヤがうまれるヒントを得たように思います。
1ヶ月かけてようやく目的のカシミヤ山羊に出会えた私達は
生産者にお礼を言って元のベースの街へ戻りました。
カシミヤ山羊と、生産者に会えた感動から
行きとは違い帰りの帰路はとても短く感じました。
そしてベースにつくと5月も終りだというのに
大粒の雪が降ってきました。
この時期、首都デリーは気温が45度近くなっているというのに
カシミールは雪。
改めて、インドの国土の広さと、自然の厳しさを感じながら
私達は真夏のデリーに戻りました。
〜まとめ〜
今世界中に多く出回っているカシミヤは
中国やモンゴル産のカシミヤが多くを占めます。
私達は実際に中国、モンゴルを訪ねたわけではないので
そこでどのように生産されているのかは正直わかりません。
ただ、上質なカシミヤがどのように作られているのか
更に、どのような環境にそれがあるのかを
この記事から少しでもあなたに知っていただけたかと思います。
世の中には、安価なカシミヤ製品も多くあります。
ただ私達が実際に見たカシミヤは、とても安価に取引できるような
モノではありませんでした。
そして、今回見て頂いたのはあくまで 原毛 の生産のみです。
ここから、原毛の選別、糸作り、そして織り、
更に多くの人の手が加わってようやく
製品となり世界中に届けられます。
上質なカシミヤは大自然とそこに共生する人が
生み出す最上級の繊維です。
この記事が少しでもあなたの
カシミヤに対する価値と知識のお役にたてれば嬉しく思います。
最後に
今回私達がカシミヤ山羊に出会うために協力して頂いた方、
そして快く迎え入れてくれた生産者に感謝してこの記事を
終わりたいと思います。
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