はじめに



インドの織物文化はとても古く、地域によって生産方法や、素材、デザインなどが大きく異なります。
私たちは自分達の足で現地に行き原料の生産者や工場、お店を訪ねます。



実際にストール作りに携わる人達と直接会話をすることで、あなたにご紹介するストールが誰の手で、そして、どのような環境で作られているのかを自分達の目で確認する事ができています。



更に直接現地に行く事で本やインターネットには載っていない情報も手に入れる事ができます。
その経験から得た知識や情報をこの買付日記を通じて少しでもあなたに知って頂きたいと思います。



ベンガルの伝統織物







首都デリーで一目惚れした1枚のストールを求めていくとインド東部のベンガル州に辿り着きました。
そこで出会ったのが今日ご紹介する伝統織物の ジャムダニ織 です。



ベンガル地方の手紡ぎや手織の技術は国内有数で、インドだけではなく、世界中からも高い評価を得ています。
特にコットン、そしてシルク素材の細い糸を織る技術に長け、出来上がった生地は反対側が透けて見える程に繊細です。



そしてこの生地に日本でいう縫取織(ぬいとりおり)で模様を表現したものをジャムダニと呼びます。
カシミールショール同様、17世紀のムガル帝国時代には既にあったといわれ、ジャムダニはインドの伝統的なテキスタイルの一つです。



〜 ジャムダニの村を訪ねる 〜



私達が拠点とするデリーから目的の街までは1600kmあります。
今回は深夜特急と車に乗って移動しましたが、移動時間は20時間。
まるで南国に訪れたかの様な、デリーとは全く違う景色がそこにはありました。






自然に囲まれた村にはヤシの木やマンゴー、レモンの木があちこちに生え、幹線道路沿いには山の様に積んだヤシの実を売る露店がいくつも軒を連ねています。
湿度が高く暑いこの地域でヤシの実は昔からなくてはならない栄養源の一つです。
私達がこの村を訪れたのは4月中旬、既に気温は35度近く道沿いにある川では子供達が水浴びをしています。



そして村に到着し職人のアミールさんの家を訪ねると家族の皆さんが笑顔で出迎えてくれました。






早速ジャムダニができる工程を見せて頂こうと思いましたが、この地域では日中の暑い時間は仕事をせずに朝と夕方仕事をするという事で募る期待を胸に日が暮れるのを待ちます。



〜 工房を訪ねる 〜



陽が沈み辺りが暗くなるとアミールさんが家の外に連れ出してくれました。

街灯もなく、車も通らない村の道はとても静かで虫の音だけが聞こえます。
そして行き先も告げられずに暗闇の中をついて行くとどこからともなく機織りの心地よい音が響いてきました。
音はどんどん近くなり、窓の中をのぞくとそこには黙々と機を織る職人の姿がありました。





〜 繊細な仕事と透き通る織 〜



まず工房に入って一番先に目に入ったのは手織機にセットされた経糸の細さです。
それを見た時に、インド北部で一緒に仕事をしている生産者がベンガルの細い糸を織る技術を一度は学びたいと言っていたのを思い出しました。
細い糸が丁寧にセットされているのが写真からもわかります。





そして念願のジャムダニ織です。
先程の経糸に、緯糸が通され既に幾つかの模様が織り込まれています。
残念ながらこの写真では見れませんが、機織りをしている職人の足が織の上から透き通って見えています。






丁度タイミングよく模様の箇所に緯糸を織り込む所を見せてもらうことが出来ました。
まず模様を入れたい箇所に、模様に使う色、そして均等の長さに切られた糸を置いて行きます。
写真に小さな花のようなデザインが既に見えますが同じ模様をもう一度織り込もうとしています。






セットした糸を手際良く長いハリで経糸に通して行きます。
通す経糸の本数を全ての模様で統一しなければ、柄がまばらになってしまいますが、職人は頭の中で計算して全ての模様が同じ形、大きさになるように糸を通していきます。
ここで職人の実力が試されます。
複雑なデザインになるほど作業は細かく繊細で頭と神経を使う仕事です。








そして一通り柄になる糸を通したらシャトルを飛ばして緯糸で織り込みます。
それを繰り返し柄の部分の緯糸を切り替えて織り柄を出す。
織っているストールは違いますが、下の写真は切り替えしている部分がよく見えます。






綺麗に斜めのラインができるように、細い経糸の数を計算して通し織り込んで行っているのが分かると思います。



私達は横でこの仕事を見ていましたが、細かすぎて見ているこちらが耐えきれなくなる程繊細な、まるでパズルを組んでいるような仕事でした。
集中力があり、地道にコツコツできる人でなければできない技です。



もちろん恒例の体験をさせてもらいましたが、緯糸をハリで通す前に、経糸が細過ぎて手が震えてしまい
まったくうまくいきませんでした。
あまりの出来なさに職人達は苦笑いです。





〜 環境にあったものを自分達の手で作る 〜



私達はこれまでインドの北部を中心にストールを見てきました。
ヒマラヤ山脈の麓でもある北部はとても寒く織られる素材もカシミアやウールが中心です。
厳しい寒さを乗り切るため、それらの素材は昔から彼らにとって身近なものでした。



一方で暑い地域にすむベンガルの人々は夏素材の綿や絹の扱いに長けています。
灼熱の太陽と湿度から身を守るために、少しでも薄く、そして通気性を良くするために細い糸を織る高い技術を身につけました。



ジャムダニ織は本来インドの伝統衣装サリーの生地として使われています。
自分達の環境にあったものを自分達の手で作る何百年も前から受け継がれてきた貴重な服飾文化は今もしっかりと残っています。



今回デリーで出会った1枚のストールをきっかけに、また素敵なインドの手仕事に出会う事が出来ました。



インド・ベンガルのジャムダニ織<素晴らしい仕事がここにもありました。








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